つくばの住民投票が見せた市民と議会のキャッチボール

住民投票記者会見 

 8月2日に行われたつくば市総合運動公園基本計画の住民投票は反対63,482票(80.8%)、賛成15,101票(19.2%)と、計画に反対する票が8割を超えました。市原市長はそれを受け、計画の白紙撤回を表明しました。住民投票の会が声明を出していますので、ぜひお読みいただければ幸いです。
住民投票の結果に関連して(声明)

 私は住民投票の会の世話人の一人として裏方を担当していましたが、住民投票の会の代表三名、事務局のみなさんのお仕事は本当に敬服のひと言ですし、署名・投票・応援をしてくださったすべてのみなさまに感謝の気持ちで一杯です。
 
 今回の住民投票が意味するものは投票前に、議会の機能不全と市民社会の側面ニーズ対応とニーズ創出の公共事業の側面と2つちょっと長目の投稿をしましたが、今後どうなっていくのかという点について、議会との関係から少しまとめておきます。
 
 今回の住民投票では、投票者の8割という圧倒的な多数によって計画反対の民意が示されました。おそらく全国の住民投票でここまで差がついた例は迷惑施設以外ではないんじゃないかと思います。
 
 そこまで反対が多い計画でしたが、少なくとも土地購入時においては議会は可決してしまったこと(まだ計画の詳細は出ていない段階でしたが)、その後予算をつける段階では一人差でストップしていることを考えると、議会の構成が必ずしも運動公園について民意を反映しているとは言えません。もちろん、市の課題は運動公園やスポーツだけではない(むしろ市民の要望調査では下位)ですが、ここまで大きな予算規模の事業について民意とかけ離れているという事実は大きいでしょう。
 
 今回の住民投票は、意義そのものがが議論になることもありました。住民投票という直接民主主義の要素が強い仕組みに対して、議会の存在意義がなくなってしまうではないか、という意見も少なからずありました。でも、私はそうは考えていません。
 
 議会で進んでいってしまったこの事業は、住民投票の結果を受けて市長の白紙撤回表明まで至りました。投票前は「住民投票の結果に関わらずアンケートをやって必要な物を造る」と宣言していたことを考えれば大きいことです。しかし、住民投票は間接民主主義の補完であり、今後事業を議論する主戦場はやはり議会です。まずは、9月2日から始まる9月議会に注目が集まります。

 議会の議論に対しての視線はこれまでとは大きく変化をしてきます。特に、基本計画を推進していた議員のみなさんがどのようなお考えをされるか注目をされます。今までのようにコストを考慮せず「こどもの夢のため」「世界のつくばだから」という言葉だけでは通らないでしょう。そして、市長もこれまでの議会では反対派の議員の突っ込んだ質問に対して従来通りの答弁を繰り返すだけでしたが、これも同じというわけにはいきません。ここまでの総括をしなければ、第二・第三の運動公園問題が起きるでしょうし、今後のスポーツ施設のあり方も全体の優先順位の中で議論をされていくことも必要です。

 で、少し大づかみに今回の動きを振り返れば、
①突然の土地購入にあたって市長の暴走を止められなかった議会の結果を受けて、市民が住民投票へ動き出し署名を集めた
②署名が集まったことを受けて議会は「住民投票の結果を見極める」と3月に予算を凍結した
③住民投票で反対多数の結果が出た
④今後はあらためて議会で議論に
ということでしょうか。

 ボールは再び議会にあります。ここでどのような議論がされていくか。二元代表制の一翼としてどのような動きを見せるのか。8割の反対に対してどう主体的に動いていくか。ここで議会が機能しないようであれば、また市民が動いていくことになるでしょう。

 私は、トップダウン型の住民投票には否定的な見方を持っています。熱狂的なトップダウン型住民投票(この概念自体がややゆがんでいる)とその後に来るシラケムードの繰り返しは、まちとしての成熟に決してプラスにならないと考えているからです。

 その意味で、今回のつくばでは「暴走する市長+機能しない議会」VS「怒れる市民」のようなありがちな二項対立ではなく、直接民主主義的な住民投票と、間接民主主義の仕組みである議会での議論がキャッチボールをしながら前に進むことができていると捉えています。それはトップダウン型住民投票とは質の違う、分厚い市民社会形成へとつながっていくものだと希望が持てるものです。今回の住民投票の開票日、会のメンバーの誰も浮かれていないし、万歳もしませんでした。それは、この先を見ていたからです。

 今年4月に総合運動公園計画の報道が広くされた際に「全国に恥をさらしてしまったけど、つくば市民はやはり良識があったという評価を得られれば」といったことを書きました。今回、僅差ではなく圧倒的な民意で反対を示したことでそれは一定度達成されたと思いますし、全国紙による報道も肯定的な論評が目立ちます。でも、本当に大切なのはこれから。8月2日が熟度の高いまちへの第一歩を踏み出した日として記憶されることを願いつつ、自分ができることを引き続きやっていきます。